移住者の声

無意識に“帰って”きたかった場所で

バレラさん

  • 移住お試し施設
  • 毎日の散歩が日課
  • ゆったり流れるあまくさ時間

遠い海の向こうからやってきた夫婦

穏やかな海
一番の決め手は、自然が豊かなところ。

自然や動物をこよなく愛するバレラさんは、中南米に位置するコスタリカ共和国の出身だ。

「とってもきれいな声で鳴くんですよ」。

流暢な日本語で、最近よく家に遊びにくるという、かわいい鳥の話をしてくれた。1983年に留学生として来日。東京で、妻のゆみこさんと出会った。

卒業後に結婚し2人の子どもをもうけ、30年以上コスタリカとアメリカのフロリダで暮らしたが、日に日に故郷への思いを募らせていたゆみこさんの意思を尊重し、日本に戻ることを決めた。

「一番の決め手は、自然が豊かなところ。家の周囲は本当に静かで、海も山もあって…ロケーションが完璧だったんです。しかも住居探しも兼ねて利用した上天草市の移住お試し施設の滞在中に賃貸で小さな一軒家を借りられることになり、移住が現実となりました」。

2人は2020年秋に上天草に移住。小さな漁港近くにひっそりと建つ民家は、ほどよく古く、時間とともに成熟してきた独特の風合いに満たされていた。

隣にはちょうどいい広さの畑、裏手には穏やかな海。

家を出て、さくさくと砂浜を歩きながらバレラさんの話を聞いていると、スーッと風が吹くように心が落ち着いていくのを感じる。

古民家で紡ぐ、ささやかで愛しい日々

古民家で紡ぐ、ささやかで愛しい日々
海の向こうから移住してきた2人。

朝と晩、1時間ほどかけて近所の海や山のふもとをゆっくり散歩するのが2人の日課。

先日、近所の山道を散歩中に“チャヨテ”というフロリダでもよく食べていた馴染みのあるウリが自生しているのを見つけ、懐かしいねと大喜びして毎日食べているそうだ。炒めるとホクホクしてすごく美味しいのに、近所の人からは「食べられるの?」と不思議がられたと言って2人は笑っていた。

ジムに行って、モールに行って、買い物をして…というアメリカでの華やかな都会暮らしとはまったく違う日々ですとゆみこさんは笑うが、上天草のたおやかな空気につつまれて、夫婦でゆっくりと優しい時間を過ごしていることがわかる。

「近くに80歳を超えるおばあちゃんが住んでいますが、その方が本当によくしてくれるんです。隣近所の方の名前を教えてくれたり、ごみの出し方を教わったりしました。そうそう、“畑の先生”でもあるんですよ(笑)。僕はいまオンラインで英会話やスペイン語のレッスンをしています。時間に融通が利く仕事なので、これから暖かくなったら畑に種をまいたり、苗を植えたり、一緒に畑仕事に精を出したいねと妻と話しています」。

海の向こうから移住してきた2人。遠い九州、上天草への移住に不安がなかったか尋ねると、市のフォローも手厚く、出会う人たちみんなに歓迎されている感じがしてうれしいと笑顔を見せてくれた。

「子どもたちに頻繁に会えなくなったのはちょっとさみしいけれど。もともと私は日本が大好きで、田舎暮らしの不便さはまったく感じてない。ネットショッピングもたくさん活用していますよ(笑)」。

見えないものに眼をこらして

毎日、あたらしい発見
こころの眼で見ようとしているもの。

取材終盤、バレラさんが話してくれた美しい言葉を紹介したい。

「見えないものに眼をこらし、聴こえない声に耳をかたむけるようになった気がします」。

一つひとつの言葉を丁寧に紡ぐように、私たちに静かに語りかけてくれた。

「ゆっくり散歩をしていると、足元に咲くあたらしい花に気づく。遠くの山に目をやると、小さな道を車が登っていくのが目に入る。これまで、何となく見えていると思っていたものは、本当は一部分だったことに気づいたんです。まだ日は浅いですが、上天草での暮らしは毎日、毎日、あたらしい発見があります。それは、ちゃんと見ようとしないと見えないものばかり。自然のなかにいるから気づくものかもしれません」。

2人がいま、こころの眼で見ようとしているもの。それはこれからの記憶にずっと残るものになるだろう。

バレラさん

コスタリカ共和国出身。2020年秋に上天草市に移住。

  • 移住時の年代:50代
  • 家族構成:夫婦
  • 移住スタイル:Iターン
  • 職業:外国語講師

※ インタビューの内容は2020年12月の取材時のものです
※ 協力:上天草市セカンドライフ支援ネットワーク